一般社団法人 日本肝胆膵外科学会

高度技能専門医

修練カリキュラム

更新日時:2022年12月5日

一般社団法人日本肝胆膵外科学会高度技能専門医修練カリキュラム

外科系専門医については日本外科学会専門医制度を基盤としたサブスペシャリティの外科専門医制度が構築されてきている。その中で、日本消化器外科学会による消化器外科専門医制度は修練カリキュラムが完成し、多くの消化器外科専門医を輩出し、消化器外科診療のレベル向上に役立っている。日本肝胆膵外科学会(以下、本学会)においては、肝胆膵外科領域における高度な専門知識と主体的かつ的確な技術を擁する肝胆膵外科高度技能専門医(以下、高度技能専門医)を養成し、国民の福祉に貢献し、肝胆膵外科の進歩をはかるために、日本肝胆膵外科学会高度技能専門医修練カリキュラムを提示する。

基本的事項

高度技能専門医申請資格は本学会評議員であり、消化器外科専門医であることを必須とする。

呼称は「肝胆膵外科高度技能専門医」とし、書類審査とビデオ審査により、知識、態度と技術を評価し認定する。

修練内容について

  1. 肝胆膵外科臨床に携わり、主体的かつ的確な高度技術を有する肝胆膵外科医の養成を目的とする。
  2. 外科専門医、消化器外科専門医のカリキュラムの内容に加え、肝胆膵外科領域の専門的な研修、特に肝胆膵外科領域の高難度手術を本学会の認める修練施設において、肝胆膵外科高度技能指導医(以下、高度技能指導医)あるいは高度技能専門医の指導の下で経験する。
  3. 経験手術数の到達目標数を明確にする。
  4. 学会の指定する教育プログラムに参加する。

修練期間について

修練期間中に目標手術件数を経験することが求められる。ただし、消化器外科専門医研修期間との重複は認めることとする。
※修練期間:
修練施設に在籍した期間のみを計算対象とし、最低でも3年を要し、7年を上限とする。なお、修練期間は修練施設に在籍した合計期間であり、連続した期間である必要はない。

修練の評価について

  1. 形成的評価:指導者は高度技能専門医修練のための指導マニュアルに沿って修練者を評価する。
  2. 手術経験実績:行動目標に規定する手術記録の確認審査を行う。
  3. 受験資格:受験申請時に消化器外科専門医かつ本学会評議員であること。
  4. ビデオ審査の詳細については技能認定委員会にて定め、日本肝胆膵外科学会高度技能専門医制度規則細則に記載する。

高度技能専門医修練カリキュラム

一般目標

日本消化器外科学会の消化器外科専門医としての医療技術、知識を基礎にし、更に肝胆膵外科の高難度手術を主体的かつ的確に実践できる高度技能専門医を養成するために、到達目標を定め、研修を実施する。

  1. 肝胆膵外科領域全体を包括した高度技能専門医としての知識、臨床的判断能力、問題解決能力を修得する。
  2. 手術については高難度の肝胆膵外科手術を主体的かつ的確に遂行できる技術を修得する。
  3. 自らの研修とともに上記項目について後進の指導を行う能力を修得する。
  4. 医の倫理に配慮し、肝胆膵外科の高難度手術患者の診療を行うに適切な態度、習慣を身に付ける。

行動目標

  1. 手術技術
    高難度肝胆膵外科手術50例以上を、修練施設で高度技能指導医または高度技能専門医の指導(指導的助手を意味する)の下で術者として行う。高難度肝胆膵手術50例以上の中では、高難度肝胆道手術5例かつ高難度膵臓手術5例以上を経験する。
    さらに、保険収載された腹腔鏡下またはロボット支援下の肝切除または膵切除(高難度手術以外の術式も可)を術者または助手として5例以上経験する。
    なお、保険収載されている腹腔鏡下/ロボット支援下高難度肝胆膵外科手術を50例に含んで申告することは可能であるが、全申告症例のうち、少なくとも10例は開腹手術であること。

     

    高難度肝胆膵外科手術

     肝臓手術
    肝三区域切除
    肝葉切除および拡大肝葉切除
    肝中央二区域切除
    区域切除;後区域、前区域、内側区域(外側区域は除く)
    亜区域切除(S1,S2,S3,S5,S6,S7,S8,であり、原則として非定型的部分切除は除く)
    肝移植レシピエントの移植手術
    肝移植ドナーの肝切除

    *2022年以降の症例については、以下の部分切除症例についても高難度肝胆膵外科手術として認める。
    1、 非系統的肝切除で、切除箇所数に関わらず、切除深度が5cm以上注1-3のもの。
    2、非系統的肝切除で、切除箇所数が3箇所以上 かつ少なくとも1箇所は切除深度が3cm以上注1-3のもの。
    3、非系統的肝切除で、S1の肝部下大静脈部の切除を含むもの注4-5
    4、腹腔鏡下非系統的肝切除注6で、腫瘍の主占居部位がS1注4であるもの。ただし、下大静脈からの剥離操作(短肝静脈の処理)が含まれていることとする。
    5、腹腔鏡下非系統的肝切除注6で、腫瘍主占居部位がS4a、S7、S8注4であるもの。ただし、腫瘍径4cm以上または切除深度が4cm以上注1-2,7であることとする。

     注:

    1. 切除の深さがはっきりと認識できるような、切除標本の最大割面の写真を提出すること。
    2. 切除深度は、切除標本の最大割面における肝表面から最深部までの最短距離とする。肝外に突出する腫瘍の切除深度は、肝外に突出した腫瘍部分を除いた肝表面の高さから最深部までの最短距離として測定する。
    3. 外側区域の部分切除の切除深度は、外側区域の形状の特殊性から、適格基準から原則的には除外する。ただし、外側区域切除を切除箇所の一つとして算定できる。
    4. 腫瘍の局在が判断できる術前画像(CTまたはMRI)を添付すること。
    5. 尾状葉(S1)の定義はKumonの分類に従い、肝部下大静脈部(paracaval portion)を含めた3つの領域は門脈の支配領域から定義する。肝部下大静脈部の門脈枝は、門脈本幹ないし一次分枝の頭側面から、肝部下大静脈の腹側に分布する枝とする。
    6. HALSで行った切除は対象とするが、Hybridで行った切除は対象としない。
    7. 腫瘍径が4cm未満であっても、腫瘍が深部に位置し切除標本の最大割面の深さが4cm以上であれば対象とする。

      参考:切除深度の測定法 適格基準(上記注1、2、5)

     胆道手術

    胆管切除を伴う肝切除(ただし、肝葉切除および肝S4a+S5切除以上)
    拡大胆摘以上の肝切除とリンパ節郭清を伴う胆嚢癌手術注a,b
    胆嚢胆管切除+胆管消化管吻合(先天性胆道拡張症に対するもののみ)

     膵臓手術

    膵全摘術(残膵全摘も含む)
    膵頭十二指腸切除(幽門輪温存を含む)
    リンパ節郭清を伴う膵体尾部切除(膵原発浸潤性悪性腫瘍、NETに限る)注a,c
    血管温存膵体尾部切除注a
    膵中央切除
    十二指腸温存膵頭部切除
    膵頭温存十二指腸切除
    Ventral pancreatectomy
    下膵頭切除
    Beger手術
    Frey手術注a
    膵移植レシピエント手術
    膵移植ドナーの膵切除

     注:

    • a.高難度肝胆膵外科手術定義適用時期について
      以下の4術式に関しては、2023年より新しい定義に従った申請を可能とする。
      ・拡大胆摘以上の肝切除とリンパ節郭清を伴う胆嚢癌手術
      ・リンパ節郭清を伴う膵体尾部切除(膵原発浸潤性悪性腫瘍、NETに限る)
      ・血管温存膵体尾部切除
      ・Frey手術

      ただし、新しい定義に従った症例は 2022 年 1 月 1 日の症例から有効とし、2021 年 12 月 31 日の症例までは旧定義での審査を行う。
      また、新しい定義で除外される手術(膵体尾部切除+2 群リンパ節郭清を行ったが術後病理で良性が判明した症例など)は、2022年 12 月 31 日までの症例は認めるが、その後は認めない。
    • b. 術後病理検査でT2以深と診断されることを必須とする。
      肝床(胆嚢床)切除以上の肝切除を必須とする。
      *単純胆嚢摘出術の術後病理診断で胆嚢癌T2以深と判明し、追加切除として肝部分切除+リンパ節郭清を行う場合も当該再手術を高難度手術と認める。
    • c. 術後病理検査で周囲組織への浸潤性伸展を有する悪性腫瘍、もしくはNETと診断されることを必須とする。
      含まれる腫瘍、含まれない腫瘍を下記に例示する。
      含む:浸潤性IPMC・浸潤性ITPN・浸潤性膵管癌・腺房細胞癌・NET
      含まない:SCN・MCN・浸潤性の無い膵管内腫瘍・PanIN・SPN・膠芽腫・非上皮性腫瘍

     血管合併切除再建
    以下の手術は非高難度の肝胆膵外科手術と共に行った場合、高難度肝胆膵外科手術として認める。

    門脈切除再建を伴う肝胆膵領域の手術
    肝部下大静脈再建を伴う肝胆膵領域の手術
    肝静脈切除再建を伴う肝胆膵領域の手術
    上腸間膜動脈切除再建を伴う肝胆膵領域の手術
    肝動脈(腹腔動脈系)切除再建を伴う肝胆膵領域の手術

    肝膵同時切除で肝臓手術・胆道手術、膵臓手術を同時に施行した場合でも1症例の手術経験として計算する。また、血管合併切除再建と高難度肝臓手術・胆道手術・高難度膵臓手術を同時に施行した場合は、1症例の手術経験として計算する。術者が複数名の場合、主に携った1人のみの経験とする。また、上記以外でも高難度と考えられる症例は、それが証明可能な手術記録(写)を手術実績表に添付する。手術記録にはスケッチが含まれ、手術時間、出血量、stageが記載されているものとする。亜区域切除症例がある場合は、その手術記録(写)と術中写真を添付する。高度技能専門医審査においては手術記録も審査対象である。したがって、高度技能専門医申請者が術者の場合は、自らが手術記録を記載することを原則とする。

  2. 生涯学習
    (1)施設内カンファレンスを司会し、積極的に討論に参加する。
    (2)個々の症例に合わせ、根拠に基づいた診療(EBM)を行う。
    (3)学術集会、教育プログラムに参加し、日進月歩の医学、医療の実情に触れる。
    (4)学術集会、学術出版物に症例報告や臨床研究の結果を発表する。
  3. 医の倫理
    (1)育成指導者のもと担当医として症例を受け持ち、肝胆膵外科診療における適切なインフォームド・コンセントを行う。
    (2)生活指導、術後療養の指導、ターミナル・ケアを適切に行う。
    (3)後進医師に対して、肝胆膵外科診療についての指導を行う。
    (4)文献や育成指導者の意見などの教育資源を活用する方法を学ぶ。
  4. 医療行政
    医療行政、医療管理(リスクマネージメント、医療経営、チーム医療など)についての重要性を理解し、実地医療現場で実行する能力を修得する。
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