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肝細胞がん

更新日時:2017年11月2日

肝細胞がんとは

肝細胞がんの概要

肝がんは、肺がん・胃がんに次いで日本人男性でのがん死の第3位を占めており、未だに年間死亡者数は約3万人を超えています(図1)。

肝がんは大きく分けて、肝臓から発生する原発性肝がん、他臓器がんからの転移である転移性肝がんの2つに分類されます。原発性肝がんのうち、90%以上が肝細胞がんです。ここでは肝細胞がんのお話をします。

【図1】日本人(男性)の部位別がん死亡数(2013年)

出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」

 

肝細胞がんの診断

 肝細胞がんは、初期の段階ではほとんど症状はありません。進行した場合には、腹痛、背部痛、黄疸、むくみ、腹水、食欲不振、体重減少などが認められます。

 肝細胞がんの診断としては、血液検査で腫瘍マーカーのAFP、PIVKA-IIが高値を示します。画像診断としては、腹部超音波、造影CT、造影MRI(EOB-MRI)が有用で、中でもEOB-MRIは肝がんの検出力が高く、重要な検査法と言えます。診断に難渋する場合は肝生検(腫瘍を直接穿刺して検体を採取し、病理検査を行うこと)を行うこともあります。

 

肝細胞がんの進行度

 肝細胞がんの局所進展度(がんの大きさなど)、リンパ節転移の有無、遠隔転移(肝臓以外の臓器へ転移すること)の有無から、4段階の進行度(ステージ)に分けます。ステージ1~3はリンパ節転移や遠隔転移がなく、局所進展度のみで分類されます。ステージ1は単発、2cm以下、かつ脈管浸潤(がんが肝内の主な動脈、門脈、胆管、静脈などへ浸潤していること)がない、小さながんです。ステージ2、3となるにつれ個数や大きさなどが増えていきます。ステージ4は局所進展度が高度なもの(多発、大きさ2cm以上、かつ脈管浸潤あり)のほか、リンパ節転移や遠隔転移が存在するものも含まれます。手術適応は基本的にステージ1~3の場合ですが、ステージ4でも条件によっては切除可能な場合もあります。

 

肝細胞がんの治療

 

肝細胞がんに対する手術

肝予備能(再生能力などのポテンシャル)が良くないと手術は不可能です。 肝細胞がんは、慢性肝炎や肝硬変などによる肝機能障害を伴っていることが多いため、手術前には必ず肝予備能検査を行います。肝予備能が良い場合は肝臓の約2/3まで切除できますが、悪い場合は部分切除などの小さい切除しかできません。

手術適応となる肝細胞がんは、海外のガイドラインでは肝予備能が良いこと以外に、肺・骨などの遠隔転移を認めず、かつ脈管浸潤がないもの、となっています。しかし日本のガイドラインでは、脈管浸潤があっても条件によっては切除可能となってます。

肝臓は解剖学的に4つの区域(細かく分類すると8つの亜区域)に分かれています(図2)。肝切除術式は区域に沿って切除するかしないかで2つに分類されます。

【図2】肝臓の区域、亜区域

 

1.非系統的切除

肝部分切除がこれに相当します(図3)。腫瘍から最小限の距離を置いて、区域に関係なく肝切除を行います。切除範囲が少ないことが多く、肝硬変を伴う場合や、転移性肝がんなどで主に行われます。また腹腔鏡(小さい傷で行う手術)で行うことも多い術式です。

【図3】非系統的肝切除(部分切除)

2.系統的切除

解剖学的な区域に沿って肝切除を行います。肝右葉切除、肝外側区域切除など、切除する区域によって多様な術式が存在します。切除区域を栄養する流入血管を遮断し、区域の境界に沿って肝切除を行います。肝細胞がんは、腫瘍が存在する区域に微小転移が稀にあるため、肝機能が良い場合は基本的に系統的切除が行われます。最近では腹腔鏡でも系統的切除が安全に行われるようになっています。切除範囲に胆のうが含まれる場合は、胆のうも同時に切除します。

【図4】系統的肝切除(肝右葉切除)

手術以外の治療法

 

1.局所療法(ラジオ波焼却療法など)

肝細胞がんの根治治療は肝切除以外に、局所療法があります。局所麻酔下で腫瘍を体外から針で直接穿刺し、熱凝固やアルコール注入などを行い腫瘍を死滅させる方法です。適応としては小さくて個数が少ない場合(3cm以下かつ3個以内)となります。

 

2.経カテーテル的肝動注塞栓療法(TACE)

肝切除や局所療法が不可能な場合は、経カテーテル的肝動注塞栓療法が行われます。足のつけ根(大腿動脈)に針を穿刺し、カテーテルを動脈内に沿わせて腫瘍を栄養する肝動脈まで到達させます。そこから抗がん剤を直接注入し、さらに栄養血管を塞栓物質で閉塞させる治療です。この治療法は腫瘍の個数が多い場合にも応用がききますが、しばしば繰り返し治療が必要となります。

 

3.その他の治療

肝細胞がん治療の3本柱(肝切除、局所療法、TACE)を行っても、治療後のがん再発率は他のがんと比べると極めて高率であり、5年間で約70~80%に再発します。現在有効な補助療法(再発予防を目的とした、治療前後に行われる抗癌剤などの治療のこと)は確立されていません。原因としてはベースとなっている慢性肝炎や肝硬変が治らないかぎり、発がんが繰り返されることなどが考えられています。

再発を繰り返すことにより、最終的に多発肝内転移や脈管浸潤などの出現により治療困難となります。進行した肝細胞がんに対しては、唯一分子標的治療薬(ソラフェニブ)のみが適応となります。しかし奏効率(腫瘍が50%以上縮小する率)は数%と低く、余命を数か月延長し得る程度に留まっています。

日本では以前より進行肝細胞がんに対する肝動注化学療法(肝動脈に直接抗癌剤を注入する方法)が行われており、奏効率は14-71%と報告されています。日本のガイドラインでは、脈管浸潤がある場合はソラフェニブに加え肝動注化学療法が選択肢に組み込まれています。肝動注化学療法により腫瘍が縮小し根治切除が可能となるケースも報告されており、進行例においても長期予後が期待できる治療と考えられます。しかし未だに海外では受け入れられていないのが現状であり、現在日本で進行肝細胞がんに対するソラフェニブと肝動注化学療法の併用療法の臨床試験が進行中です。

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