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膵臓神経内分泌腫瘍(NET)・その他の膵腫瘍

更新日時:2017年12月6日

膵臓神経内分泌腫瘍(NET)・その他の膵腫瘍とは

膵臓神経内分泌腫瘍(NET)の概要

 膵NETは非常に希少であると言われてきましたが、近年増加傾向にあり、我が国の最近の報告では膵・消化管NETで10万人あたり3.37人が罹患しております1

一般的に膵NETは機能性腫瘍と非機能性腫瘍に分類されます。機能性とはホルモン症状、たとえば、インスリノーマであれば低血糖による意識障害、ガストリノーマであれば胃・十二指腸潰瘍、VIPomaであれば、一日50回にもなる下痢症状ということになります。

 2017年のWHO分類によれば、NETは大きく分けて病理学的に以下の3種類に分類されます:神経内分泌腫瘍(狭義のNET)、神経内分泌がん(NEC)、MiNEN (腺がん、腺房細胞がん、内分泌がんが混合しているもの)。顕微鏡で、リボン状の構造物があり、クロモグラニンA、シナプトフィジンなどの内分泌マーカーが陽性であることが特徴です。肉眼型分類は単純結節型の予後が良いと報告されております2

  膵NETを引き起こす特定の原因は明らかではありませんが、古くから多発性内分泌腫瘍症(MEN-1型)やフォン・ヒッペル・リンドウ病といった難病に膵NETが発症することが知られています。腫瘍抑制に働くMEN-1遺伝子やがん抑制遺伝子の一種であるPHLDA3 の抑制がP-NETの発達に関与していることがわかってきました。

 膵NETの進行度分類は、日本の膵がん取り扱い規約第7版に準じて行います。ステージ0からステージ4までに分類されており、ステージが上がるにつれ進行度は高くなります。

 

膵臓神経内分泌腫瘍(NET)は良性なのか?それとも悪性なのか?

 100年以上前からこの病気が悪性かどうかは議論の対象でした。それは上記のようにこの病気が希少であり、十分に全体像が把握されてこなかったとことが原因です。しかし、最近は医学が進歩し、2014年のLancet Oncology3に搭載されたNETの5年生存率によりますと、確かにNET全部でみると大腸がんと同等と言えますが、臓器別に見てみると、膵NETの5年生存率は約40%であり、大腸がんよりはるかに悪いことがわかります。

 

どうして膵臓神経内分泌腫瘍(NET)は予後が悪いのか?

 機能性腫瘍の一種であるインスリノーマは腫瘍が小さくても低血糖症状がでるために比較的早期に見つかるため、予後は良いと言われておりますが、非機能性の場合はなかなか見つからないと考えられます。
実際、2007年の我が国の全国集計4

 369人のうち、166人(45%)がステージ4に分類されています。ステージ 3は48人(13%)であり、つまり初診時に6割の人が進行がんということになります。以下に生存曲線を引用しますが、ステージ4の5年生存率は39.4%であり、ステージ3であっても58%ということになります。

 以上より、膵NETは少なくとも2007年の時点においては早期に発見できていたとは言い難いと言えます。

 

 また、2010年の全国集計によれば、初診時に5人に1人が遠隔転移を診断されます。WHO分類では膵NETの悪性度をG1、G2、NEC(G3)と分類しており、NECは細胞増殖が速いとされておりますが、2010年の日本の報告では、非機能性NECの52%が初診時に遠隔転移をきたしていることがわかりました5

 

膵臓神経内分泌腫瘍(NET)の概要の診断

 機能性腫瘍は上記のようなホルモン症状を伴いますが、腫瘍の局在がわからない場合は、選択的動脈内刺激薬注入法(SASIテスト)や超音波内視鏡などで腫瘍の局在を調べることもあります。

 非機能性腫瘍は検診などで偶然見つかるか、黄疸や背部痛などで膵管がん(いわゆる膵がん)と診断されて専門施設に紹介になるケースが多くなっております。

 全般的には、血液検査の腫瘍マーカーは日本の現状では役に立たないことが多いのですが、CTやMRIなどの画像診断では、膵管がんと異なり非常に特徴的な腫瘍の動脈支配を証明されることが多くなっております。機能性腫瘍ではインスリン、ガストリン、グルカゴン、VIPなどの基礎値を測る必要があります。また、上記のMEN-1型では、高カルシウム血症やインタクトPTHを測定し、副甲状腺に腫瘍性病変がないか、エコーなどで調べることが重要です。

 

 

膵臓神経内分泌腫瘍(NET)の治療法

膵臓神経内分泌腫瘍(NET)に対する手術

 手術適応や手術術式は原則として膵管がんに準じて行われております(膵管がんのページ参照)。原発巣は切除を行うことができた群は予後が良い傾向にあり6、切除が第一選択であると言われています。

 

膵NETの肝転移は手術できないのか?

 日本と米国の診療ガイドラインでは肝転移や切除不能の機能性腫瘍の減量手術について、患者さんの状態に応じて切除すると書いてあります。西欧のコンセンサスガイドラインは少々複雑で、切除できる患者さんの条件が細かく分類されているように見えますが、基本的には切除できるものは切除するという日米の方針と同様となっております。

 

膵臓神経内分泌腫瘍(NET)に対する薬物療法

 切除不能の膵NETに対する最適な治療法は、機能性腫瘍の有無に関わらず、以下の抗腫瘍薬物療法が一般的です。

  1. ストレプトゾシンを使用する化学療法
  2. 分子標的療法(エベロリムス、スニチニブなど)
  3. オクトレオチド(サンドスタチンLAR, ランレオチドなど)
  4. シスプラチンを使用する化学療法
  5. PRRT (日本ではできません)

それぞれの薬の特徴

 ストレプトゾシンをベースに5-FUやドキソルビシンやシスプラチンを組み合わせた注射による抗がん剤は欧米では古くから行われており、これらは現在でも西欧では第一選択となっておりますが、日本ではつい最近保険で承認されたばかりであり、まだ第一選択とは言えない状況となっておりますが、臨床試験ではストレプトゾシン単剤でもまずまずの効果を出しています。

 分子標的療法は内服薬で、わが国ではエベロリムスとスニチニブが最近保険で承認されました。エベロリムスはもともと免疫抑制剤として使われていましたが、P-NETに効果があることが国際的な第3相試験で証明されました。副作用としては間質性肺炎や感染症などがあげられます。スニチニブも国際的な第3相試験でその有効性を証明され、わが国で保険承認された薬です。副作用としては不整脈や高血圧などがあげられます。すなわち肺の悪い人に対するアフィニトールは使いづらく、心臓に問題がある人はスニチニブが使いにくいということで、患者さんの状態に応じて使い分ける必要があります。

 シスプラチンをベースにした化学療法は注射ですが、肺の小細胞がんに似たタイプのNETに対して使われます。これはおもにエトポシドやイリノテカンと組み合わせて使うことが多く、主な副作用は脱毛や骨髄抑制となっております。 ただし、WHO2017年分類におけるNET-G3に対する感度は低いことが知られており、最近のトピックはNET-G3に対する治療として最適な薬剤は何かということです。

 PRRTはNETに発現しやすいSSTR2というオクトレオチドの受容体を標的とした新しいタイプの放射線療法ですが、日本でも臨床治験が始まりました。

 こういった抗腫瘍療法の発達により、長時間腫瘍をコントロールすることができれば、切除適応はさらに広がると期待されています。

 

機能性腫瘍が多く転移していると診断され場合、もう手術はできないのか?

 機能性腫瘍の症状緩和に対しては90%減量切除という方法もあり、腫瘍学的にも内分泌学的にも切除の有効性が過去に報告されております。腫瘍量や腫瘍の発生部位などを総合的に判断して切除を行います。

 

その他の膵腫瘍

 そのほかにも膵腫瘍にはいろいろな種類がありますが、ここでは主に充実性偽乳頭状腫瘍(SPN)と転移性膵腫瘍について簡単に述べます。

 

充実性偽乳頭状腫瘍(SPN)の概要

 大部分が若年女性に発生する稀な腫瘍で、ほとんどは良性の経過を示しますが、2010年のWHO分類では低悪性度の腫瘍と定義されました。5㎝以上のSPNは悪性とされています。顕微鏡でβカテニンとCD10が陽性、クロモグラニンAが陰性(NETでは陽性)であり、トリプシン、BCL10が陰性(腺房細胞腫瘍で陽性)の所見を認めることが確定診断となります。2013年に出た大規模な研究では、これまでSPNと診断された2744人の90%が最近10年のデータであると発表されました。約9割が女性で平均年齢が約30歳でした。完全切除ができれば再発率が下がると言われています。

 

転移性膵腫瘍の概要

 膵悪性腫瘍の2~5%と言われていますが、実際はもっと多いことが予想されています。ただし、膵切除が予後を改善するかどうかは未解決とされています。最近の18研究399例を見直した研究では、腎細胞がんの転移が6割と最多で、5年生存率は50%(腎細胞がんの場合は70%)、膵外にある場合は予後不良と報告されました。

 

 

 

参考文献

  1. The up-to-date review of epidemiological pancreatic neuroendocrine tumors in Japan.
    Journal of Hepato-Biliary-Pancreatic Sciences 2015 Vol.22, Number.8, p574-7 Ito.T 他
     
  2. Macroscopic morphology for estimation of malignant potential in pancreatic neuroendocrine neoplasm.
    Journal of Cancer Research and Clinical Oncology 2016 Vol.142, Number.6, p1299-306  Katsuta E 他
     
  3. Recommendations for management of patients with neuroendocrine liver metastases.
    The Lancet Oncology 2014 Vol.15, Number.1, e8-21 Frilling A 他
     
  4. 膵癌登録報告2007ダイジェスト
    膵臓 2008 Vol. 23, Number.2 p105-123 江川 新一 他
     
  5. Epidemiological study of gastroenteropancreatic neuroendocrine tumors in Japan.
    Journal of Gastroenterology 2010 Vol.45, Number.2, p234-43  Ito.T 他
     
  6. GEP-NETの集学的治療における外科治療はどう変わったか
    臨床外科 2015  70巻 4号 工藤 篤 他
     

 

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